東京高等裁判所 昭和28年(う)680号 判決
弁護人の論旨第一点及び被告人の控訴趣意中事実誤認の論旨(但し原判示第二に関する部分)について。
論旨は被告人遠藤義治が島田孝雄より受取り被告人日岐宇一に渡した現金二千円は、政治研究団体としての協同社会主義連盟の拡大強化の資金であつて原判決認定の如きいわゆる投票買収費ではなく、しかも島田孝雄より豊町分として日岐宇一に届けてくれといわれてこれを預り、日岐宇一に渡したに過ぎない。即ち単に使者となつただけであつて自ら交付を受けた上これを日岐宇一に供与したものではないというにある。よつて記録を調査するに原判決挙示の証拠を綜合すると、右金二千円は原判示の如く、吉田候補のため投票並びに投票取纏めの選挙運動をなすことの報酬及び資金であることが明らかであり、政治研究団体としての協同社会主義連盟の拡大強化の資金であるとは認められない。又右証拠を綜合すると、右金二千円は当初平林瑛正より島田孝雄に対し、島田の属する池田町の分として交付された金二万円のうちの一部であつて、島田は右二万円を分配するに当り、有志と謀り池田町十町内に対し平等に一町内に金二千円宛分配することとし、それぞれ関係者に分配したが、その際欠席した豊町の分金二千円は、最寄りの被告人遠藤義治に届けて貰うこととして同人に交付したのであつて、その際島田孝雄は右遠藤に対し誰にやつてくれとも申さず同人の適当と思う人にやつて貰えばよい趣旨であつたこと(島田孝雄に対する検察官の供述調書(昭和二十七年十月二十二日附)第七項。同第二回供述調書(同年十月二十四日附)第二項。)及びその後被告人遠藤義治は被告人日岐宇一に対し原判示の如き趣旨の下に右金二千円を供与した事実を認めることができる。斯くの如く投票買収費の受託者が供与先を特定せず自己の裁量に委ねられて交付を受けその後自己の裁量により該金員を第三者に供与した場合においては、右受託者が供与者となるものと解すべきである。尤も被告人遠藤義治に対する検察官の供述調書には被告人遠藤義治が島田孝雄より右金二千円の交付を受けた際、その場に居合せた島田吉司が豊町の分を持つて行つて日岐宇一さんにでもやつてくれと云う様なことを申して二千円をよこされたのでそれを承諾して受取つた旨の記載があるが、島田吉司は右金員授受の当事者ではないのであるからこれによつては前記認定を左右するに足りない。然らば原判決が判示第二の如く被告人遠藤義治は島田孝雄より金二千円の交付を受けた上、これを被告人日岐宇一に供与したと認定したのは正当であつて、記録を精査するも原判決は判示第二の事実に関し判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認の過誤あるものとは認められない。論旨は原審と異なる見地に立ち原審の正当なる事実認定を非難するものであるから採用することができない。